全て終わったあと、家で料理をしてアラートが鳴るたびカルデアでエミヤに叱られたり料理を作ってもらったことを思い出すぐだ。少し切なくなっていると突然料理用具一式が光り出して──!?
「召喚に応じ参上した。ふ、やはり一番乗りは私だったか。君が毎日使う物がいいと思ってたんだ」
「なっ、え、は!?」
「む、マスター、肉じゃがを作っているのか?それにしては火が強すぎる。もう少し弱火にしたほうがいい」
「いやそうじゃなく!なんで!?いるの!?エミヤ!」
「ふむ、やはり気付いてなかったか」
「なにを!?」
「バレンタインがあっただろう。そのとき、君はサーヴァントに贈り物をもらった」
「そう、だけど…?」
「食べ物や景色など形に残らない物を贈った者の思惑は別として…物を贈った者の大半は、その品物に召喚とそのあとの霊体の維持に必要な分の魔力を込めていたのだよ」
「は…?えっ、とつまり、」
「そして今日はすべての条件が揃う日だ。つまりもうすぐ──」
「てっめ!!!アーチャー!なに抜け駆けしてんだ!!」
「ふざけるなよ雑種、肌見離さずつけておけと申したであろうが…!!」
「マスター、…逢いたかった」
「ええ、あれが持ち運べるものではなかったのは重々承知です。私の不手際です。しかし、…一番にお会いするのはこのアルジュナであるべきだった」
「マスター、調理中にもゴーレムを使ってくれているのか。…ふむ、少し魔術式が乱れているか。…いや、すまない、そうではない」
「君にもう一度会えるとは、嬉しいものだな」
「み、んな…?」
「まったく、もう少し君を独り占めしたかったのだがね」
「ふざけんな!テメェはもう十分だろうがよ」
「そうだわ!貴方はさっさとそこをどきなさい!」
「ほら、マスター、こちらへ」
「っ、…うん!」
マスターは知らない。私達がどれほど君を誇りに思っているか、どれほど尊敬しているか。君を、どれほど。大切に思っているか。
君は私達からの贈り物を、協会に奪われなかったことを不思議に思っていたけれど。ひとつとっても普通の魔術師が発狂するほどの価値ある物なはずなのに、だなんて。
そこまで考えつくのに、その品々が奪われない本当の理由には気づかないんだな。君だからこそ贈った物を、君以外が持てるわけがないだろう?
君は今日のことも一時の再会だと喜んでいるのだろうな。君はいつもそうだった。我々の心を解きほぐし、信頼し、信頼され、心に入り込んでおきながら。それでも私達がいつか去るものと最後の一線を踏ませることはなかった。私達に何も期待していなかった。
君が感情を動かすのは、結局盾の少女のことだけだった。
事実、君は私達が還ったあと、懐かしがりはしても会いたいと思ったことはなかったのだろう。
それでも。
私達は、私は、無理だった。君に、また会いたいと。君の傍にいたいと思ってしまった。ただの影法師にすぎない私が、一分霊にすぎない俺が、生者である君と共に生きたいなどと。
……他の者達までそう考えて、剰え実行に移すとは予想外だったが。
君は許してくれるだろうか。俺が、私達が傍に、共に生きることを。いつかの日君を看取った後には君を──に連れていきたいと思っていることを。
君は立派なマスターだったが。サーヴァントとの接し方だけは、もう少し考えるべきだったな。こんなにも執着されるような付き合い方などすべきではなかった。
君に物を贈らなかった者は彼方で色々と準備中だ。前々から決めていたことなのに我々が一足先に行くことに腹を立てていた。きっと直ぐにでも終わらせて彼らもまたここへ、君の元へやってくる。また大所帯になるだろう。今度は期限もない。
……使命もない。だから。今度こそ。
「エミヤー!ごめーん、鶏ガラと中華味間違えたー!」
「っなに!?何故そんなミスをする、ちゃんと瓶に書いていただろう!」
「うっ、ごめんなさーい!」
「大丈夫ですよ、マスター。まだやり直しはききます故」
「うう、優しさが痛い……」
「おう、マスターよ!桂剥きはできたぞ、これでよいのか?」
「うっっわすごすぎ胤舜。さてはプロだな?」
「はっはっ、勘を取り戻してきたな!」
「母の方が!母の方が上手くできますよ!見てくださいリツカ!」
「鳳凰、だと……!?もはやどうなってるのかわからない!」
「……はァ、まったく、」
「なァに考えてんのか知らねェが、嬢ちゃんは今は笑ってる」
「そーそー、マスターが笑ってる間はこのままでいいんじゃないですかね?」
「ずっと分からないままだったら、教えこめばいいだけのこった」
「…もし、マスターが嫌がれば、…どうするんだ?」
「ク、はは、優しいねェエミヤの旦那。そりゃアンタ、決まってるだろぉ?」
一様に口許をつり上げる、ぎらぎらした昏い底のない瞳を見ながら、愚問だったなと溜息をつく。
「そうだな、決まっている」
どうなろうと、離すことはない。離させはしない。それだけだ。
「エーミヤ!はやくー!」
「ああ、今行く」
〜Happy Valentine〜
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